各国政府は、食料・エネルギー価格が急騰する中で、難しいトレードオフに直面している。政策当局者は、低所得世帯を実質所得の大幅な落ち込みから守り、そうした世帯の食料とエネルギーへのアクセスを確保する必要がある。ただ、同時に、公的債務の増大による脆弱性を抑え、かつ、高インフレへの対応として財政政策と金融政策の間に食い違いが生じないように財政引き締めスタンスを維持しなければならない。
食料価格は2019年以降1.5倍になっており、食料とエネルギー両方の市場で供給の混乱が続いている。価格の上昇はあらゆる場所で人々の生活水準を脅かしており、各国政府は価格補助金や減税、現金給付など様々な財政措置を導入するよう促されている。われわれが、推定値のデータにアクセスできる国を基に試算したこうした措置の財政コストは、GDPの0.6%(中央値)だった。これは既存の補助金を含んでいない。
大半の政府は、パンデミックによってすでに逼迫した財政がさらに圧迫される事態に直面している。インフレの亢進や通貨安、金利の上昇によって、多くの国で信用スプレッドが拡大しており、今後利払い費が増加することになる。世界の公的債務は2020年に記録した過去最高水準からは低下するものの、2022年も対GDP比91%と高い水準にとどまると予測されている。これは、パンデミック前の水準よりも依然として約7.5%ポイント高い。低所得国がとりわけ脆弱であり、最貧国のほぼ60%が過剰債務に陥っているか、そのリスクが高くなっている。
最新の「財政モニター」では、政策当局者がこうしたトレードオフにどうアプローチすれば、人々が現在の危機から回復し将来の課題により良く対処するのを支援しうるかについて議論している。
食料とエネルギーへの対応
政策当局者は、高い債務水準と借入コストの上昇を踏まえ、社会的セーフティネットを通じて最も脆弱な人々に的を絞った支援を優先すべきである。国によっては、低中所得世帯向けに(基本利用分について)公共料金の割引を提供することが必要となるかもしれない。エネルギーの使用を削減し供給を拡大するためのより広範なインセンティブを維持する上では、エネルギー価格が調整するのを許容することが非常に重要である。各国政府は、長引く供給ショックと広範なインフレに直面しているが、価格統制や補助金、減税によって価格の上昇を抑制しようと試みるべきではない。そのような対応は予算上のコストが大きく、最終的には効果がないだろう。多くの低所得国は、財源が限られており、人道支援と緊急融資に関する世界的な取り組みの強化が必要になる。
高インフレ下においては、食料・エネルギー価格の高騰に対処する政策によって総需要が拡大されるべきではない。需要圧力は中央銀行に対してさらなる利上げを強いることになり、国債費の増大につながる。財政スタンスを引き締めることは、政策当局者がインフレ対策で一致しているという強力なシグナルを送ることになる。
経済の強靭性を高める
IMFの報告書では、政府が広範囲の負のショックに対して長期的に強靭性を構築する必要がある点が強調されている。パンデミックや世界金融危機によって、各国固有の自然災害やその他の不利な事象以外にも、各国政府がもしもの時に備えておかなければならないことが明らかになった。徐々に財政バッファーを構築することにより、やがて政策当局者は危機に素早く柔軟に対応できるようになるだろう。
各国の能力と利用可能な財政余地次第では、パンデミックの最中に有用性を発揮したいくつかの財政ツールがより恒久的なツールキットの一部になりうる。例えば、雇用維持制度は、パンデミック下で欧州連合(EU)における個人の所得減少の40%超を吸収し、有効性を示した。企業に対する特例的な金融支援は、広範な倒産を防止しうる。しかし、そのような支援は各国政府を大きな財政リスクにさらすことになるため、深刻な危機の場合に限定すべきである。
より一般的に、社会的セーフティネットは人々が失業や病気、貧困から立ち直るのを支援し、広範な課題に対する人々の耐性を高めることにつながる。そうした制度は、デジタル技術を活用して、拡張しやすくするとともに対象をより良く絞り込むことができる。
われわれは、この15年の間に、債務が拡大し金融政策に制約がある中で、重大な世界的危機がいかに革新的で強力な財政対応につながったかを目の当たりにしてきた。各国は、ショックが発生しやすい時代における財政政策の役割、つまり、財政政策がどのように危機時の損失を緩和し強靭性を構築しうるかについて再考し、世界各地の経験から学ぶ必要がある。